走らんか副社長

【醤油の産地へ 東行】

66区 香取~潮来

鳥の大群が水辺を覆い尽くしている。しかも、かも。何もかも、かも。時々違う種類の鳥もいるが、あたかも、かものようにかもフラージュされているのでよくわからない、かも。

手もとに網さえあれば捕まえるのは容易だろう。一網打尽という言葉があるが、この鴨たちを一網で捕り尽くすことはとうていできそうにない。本当に捕まえたら、一生かかっても食べきれないほどの鴨南蛮そばや鴨鍋の材料が手に入りそうだ(ネギも必要だが)。折りしも鳥インフルエンザの発生が報道されていて、この鴨たちは大丈夫なのか、健康状態が心配だ。ぐゎっぐゎっと少しのどを痛めているような声で鳴いている。


今回は、千葉県から利根川の対岸へわたって、茨城県潮来(いたこ)市に入る。あまりお若くない方であれば、橋幸夫が歌う♪潮来のい~たろ~おぉ、や、あるいは♪潮来ぉ花嫁さんは、という懐かしい曲をご存じだろう。私の記憶の片隅にもかろうじて残っている曲だが、水辺には潮来笠姿の橋幸夫像と花嫁の像があり、どちらもボタンを押せばスピーカーから曲が流れて、ああこの曲ね、と思い出すしくみになっている。


水の豊かな“水郷潮来”として有名な観光名所で、川沿いには観光あやめ園があるが、12月の今は季節はずれだし、水郷を巡る手漕ぎの観光船も寒風吹きすさぶ中では休業中だ。この連載は毎月更新していて季節を選べないので、その土地がもっとも輝く季節をはずしてしまうのは致し方ない。しかし、観光案内を見ると、湖岸の白鳥の里には冬の間白鳥が飛来するという。なるほど、この季節でしか味わえない見どころもあるではないか。それでは白鳥の湖を見に行こう、と霞ケ浦の東にある北浦まで足を伸ばして遭遇したのが冒頭の写真だ。

白鳥の世話をしているおじさんが餌をまいており、そのおこぼれをちょうだいしようと鴨が大勢集まって来ているのだ。にぎやかに餌を争っているさまは殺気立っているようで、しかしほほえましくもある。

鴨ばかりではなく、本来主役であるはずの白鳥もいちおう4羽いる。たった4羽ではあるが、4羽といえばバレエ音楽白鳥の湖に“四羽の白鳥の踊り”という名曲がある(4羽(4人)が横一列に手をつないでつま先立ちで踊る曲。バレリーナ体型でない人たちがお笑い芸として演じることもある)。チャイコフスキーには今日のこの騒がしい白鳥の湖を見てもらって、“四羽の白鳥および四千羽の鴨の踊り”を作曲して欲しかったと思う。


潮来は霞ヶ浦の南東端で、湖が細く常陸利根川という川になって太平洋へと向かいはじめる所だ。古くからの醤油の産地である野田、銚子、土浦の3ヵ所を出た水運が交わる地点でもある。現代では水運は廃れているが、潮来と土浦を結ぶ高速船は今も健在のようだ。

常陸利根川(奥が霞ヶ浦)

前回、関東における醤油のキッコー印は、土浦城と香取神宮に因んでいると書いた。両地点を鉄道や車で移動しようとすればけっこう遠いのだが、昔からの交通手段、つまり水上を行けば近いことに気付く。

2016年12月

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