走らんか副社長

【日光御成道 南行】

27区 岩槻~浦和

岩槻は人形のまちだけあって、駅前には人形のからくり時計がある。駅に着いたのがちょうど10時だったので、音楽に合わせて動く人形を見ることができた。私の横で女の子を抱いたお母さんが、ほらお人形だよ、と子供に見せようとしているのだが、かんじんの女の子は「こわい~」と泣きそうになっていた。近くにある人形歴史館にも入ってみたが、たしかに古い日本人形は、魂が入っているような、あるいはこちらをじっと見つめているような感じがして、怖がる子供の気持ちも理解できる。


東北自動車道と交差するあたりで、かつて湾曲していた道が直線に整備され、旧道は途切れている。街道はどこにつながるのか、うろうろ進むうちに団地内の公園で2匹の蛙を発見した。まるまると膨らんだ腹は、イソップ童話で牛の大きさと張り合って息を吸って吸って、ついにはお腹が破裂して帰らぬかえるになった蛙を連想させる。しかしながら、この蛙は姿がかわいい、というだけの代物ではないことにも気がつく。

寺の門の両側に立つ仁王像や、神社の狛犬は、阿(あ:口を開いて息を吐いている)と吽(うん:口を閉じて息を吸っている)の2つの像が対になっているものだが、この蛙は見事にその決めごとに沿って作られている。子供たちはそんなことは考えもせずに遊んでいるだろうが、この像を設計した方のさりげない遊び心に敬意を表したい。


岩槻を抜けると、地名は七里(ななさと)。最寄りの駅は東武野田線の七里駅だ。野田線は都心からおよそ30kmの円周上を走っているので、なるほど七里とは、江戸から街道を歩いてちょうど7里(約28km)なので七里なのだ、いい地名だなと勝手に思っていたのだが、今回、ここから少し東京寄りの一里塚が江戸から8番目で、ということは、ここは江戸から8里以上あることを知って、一気にがっかりしてしまった。七里の由来は距離の単位とは関係なく、かつて7つの集落が合併したからだそうだ。

しかしあきらめの悪い私は、街道を歩けば8里以上あっても、直線距離ならどうなのかを調べてみた。街道沿いにある七里中学校あたりを起点として、東京方向に7里(28km)の直線を伸ばすとどこに着地するのだろうか。

それはなんと皇居の真ん中なのだ。かくして、私が主張する「七里は江戸から7里説」が正しいことが立証されたのである。どうだ。

七里は江戸から7里説


さいたま市見沼区は、荒川水系の河川が複数流れており、地名に沼がつくくらいだから低湿地なのだろう、とは想像していたが、江戸時代の大規模治水工事の跡あり、水辺の豊かな自然あり、で想像以上に気持ちの良いコースであった。

水路沿いに散歩道が整備されていて走りやすそうなので、街道をそれるがそちらを進むことにする。この水路は見沼代用水路といって、新田開発のために井澤弥惣兵衛為永という長い名前の人が全長60kmもの長い水路を半年で作った、と説明がある。その水路が今も現役で、農業はもちろん自然環境の保全に役立っているのがすばらしいと思う。

水路に沿った桜並木の下を、地元の人たちが走ったり散歩したりしているが、立派なにわとりも勝手にお散歩中であった。野生なのか、放し飼いなのか、逃げ出したのか、唐揚げ用なのか、カーネルおじさんが育てているのかわからないが、にわとりはちきんと飼ってほしいものだ。

水路の途中にある、さぎ山記念公園は広い芝生と池、そしてそこに咲く白と桃色の睡蓮がきれいであった。いやはや、期待していなかったのに美しい光景に出合うとたいへん得をした気分になる。行きあたりばったりの走りが功を奏することも時にはある。


水路を離れてコースに戻るが、今回の沿道には花や庭木を栽培している農家が多い。いろいろな植物を見ることができて楽しいのだが、敷地内にこんな看板が立っている。悪さをするといったいどんなたいへんなことになるのだろうか、試しにやってみよう、などという人はいないのか逆に心配になる。


東北自動車道の上を渡る陸橋から、埼玉スタジアム2002の屋根が目前に見える。Jリーグ浦和レッズの本拠地であり、日本代表が2014年ワールドカップへの出場を今月決めたばかりの場所である。そして、柏レイソルが2011年のJ1リーグ最終節で初優勝を決めた場所でもある。何を隠そう、いや別に隠しているわけではないのだが、私は柏レイソルのサポーターなのだ。試合に通い詰めるほど熱心ではなく、ここ埼玉スタジアムにも来たことはないので、その程度ではサポーターの名に値しない!とお叱りを受けそうだが、時々は日立柏サッカー場(通称日立台)のゴール裏で応援しております。

埼玉スタジアムは、俗世間から隔絶されたような立地で、周囲には見事に何もない。最寄りの浦和美園駅までは車両基地に沿って広い歩行者専用通路があるのだが、ただそれだけである。応援するチームが勝てばよいのだが、試合に負けた後、この道をとぼとぼと帰るのは、精神的にさぞつらいことだろう。

2013年6月

今回の走らんかスポット