【中山道 西行】
75区 板橋~蕨
前回に続いて、かわいそうな植物の話題から始めよう。その名前を知ってから、早くお目にかかりたいと願いつつなかなか見つけられなかったのだが、同伴者が見つけて教えてくれた。その名は、ハキダメギク(掃き溜め菊)。
直径が5mmほどしかない小さな花には五弁の花びらがあって、よく見ると花びらの先はさらに小さな三つのぎざぎざになっている。なかなか可憐な花なのだが、これを掃き溜め菊と命名したのは植物学の権威である牧野富太郎博士。博士が自宅近くの掃き溜め(ゴミ捨て場)で見付けたから、というのが名前の由来なのだが、ワルナスビ(悪茄子)を命名したのも牧野博士。どうも博士の命名は単刀直入すぎて、植物への配慮に欠けている。ゴミステバギクとならなかっただけ幸いだろう。
そんなかわいそうな名前だけれど、好意的に解釈するとすれば、「掃き溜めに鶴」という言葉があるように、こんなところにこんな素敵な花が、という驚きをこめた意味だと考えられなくもない。もしそうだとしても、ハキダメという言葉を冠するのは気の毒なくらいいい花だと思う。
埼玉県戸田市に入ったところで、旧道の脇に柵で囲われて板碑(いたび)が保存されている。板碑とは、鎌倉・室町時代のもので、平たい石に文字や文様を彫って供養のために立てられたもの。
関東地方に多くみられるもののようだが、その理由は、材料となる緑泥片岩が埼玉県の秩父地方で産出するからだ。片岩とは、泥岩などの堆積岩が強い圧力を受けて鉱物が面状に並んだ構造(片理)になって、薄く割れる性質をもったもの。泥の粒子たちが結束して文字通り一枚岩になった、この不思議な岩を手にしたら、人は何に使おうと考えるだろうか。建材や敷石としても使えそうだが、中世の人たちが地面に立てて供養の碑にしたものが、こうして残っている。
日本橋から中山道二つ目の宿場、蕨宿として栄えていた蕨市に入る。今ひとつなじみのない市だが、じつはたいへん特徴のある市で、全国の市の中で蕨市が日本一になっている項目が三つある。
まず、面積が日本一狭い市だということ。どれくらい狭いのかを地図で確認すると、東西約4㎞、南北1㎞強のほぼ四角形をしている。あまりに狭いのでJR蕨駅から100m北へ歩くと川口市に、蕨警察署から100m南へ行くと戸田市に入ってしまうし、市に一つしかない公立高校である蕨高はさいたま市に面している。
この日本一狭い市には山林や農地がほとんどなく、ほぼ全域が住宅地である結果、日本一人口密度が高い市にもなっている。
もう一つの日本一は、これはまあどうでも良いことだが、全国の市の名前を五十音順に並べると、一番最後になる市だ。
蕨宿にある古い民家が歴史民俗資料館別館として一般に開放されているのだが、その庭園の池にはかわいらしい置物が。いつの時代のものなのだろうか、宿場町の歴史とは関係なさそうだが。
ところで散歩中の犬とその保護者に対して、路上で発生した廃棄物の放置と不法投棄を禁じ、当該廃棄物の適切な処理の徹底を喚起する注意書きを各所で見かけるが、今回「お持ち帰りにしてね」という表現を初めて目にした。ふつう、我々が何かを「お持ち帰り」する場合は、自宅に着いたらそれを食べるものだが、この場合はいかに・・・。
2017年10月